「ブルージャスミン」残酷な優雅

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 「ブルージャスミン」残酷な優雅

 やっと、ウッディー・アレン監督作品の「ブルージャスミン」

を観ることが出来た。
絶対映画館で観ようと思っていたけど、近所では上映期間
がとても短く、いつの間にか終わっていた。
ようやくDVDがレンタルされたので、いつもは値段が高い
新作では借りないのだけど、奮発して借りた。
 
結論として、予想通り素晴らしい作品だった。
旦那の詐欺が発覚し、一文無しになったセレブ妻が、
低所得の妹の元へ転がり込んで、地道に働くのかと思えば、
相変わらず昔の生活が抜けきらず、足下に地に着かない危う
く、苦い生活と続け、最後には笑えない結末になる。
 
それを、ウッディーアレンは、まるでファーブルの昆虫記
みたく、克明に冷静に観察し続け、対象にまったく干渉せず、
感情移入をいたずらに起こさせ描ききる。
 
この作品、コメディーとして分類されているが、辛辣な内容
なのにそう分類されるのは、そう思わされるのは、ひとえに、
彼の徹底した、傍観者、観察者としての演出ゆえだ。
 
ウッディーアレンはユダヤ人だけど、ユダヤ系の監督の中には、
分厚い水槽から、じっと見つめるような、突き放した演出を
する人がいる。彼もそんな一人だ。
 
だから、余計に感情を入れさせることはしない。
 
最近は、社会問題を取り扱った作品が、アメリカでも、日本でも
多いが、どうしてもリアルな現実を表現するため、過度に入り
 込んだ演出をして、悲しみやら、痛みやらを、観るものに注入
させる作品が多い。
 
それも、悪くは無いし、名作の誉れを受けるものも多い。否定
はしないし、必要な芸術作品である。
 
だけど、そればかりじゃと思う。映画で切々と現実の労苦をぶつけ
られるのは正直哀しい。現実をそのまま描くのじゃなく、そこに何
かを加えて、ある種の美しさを与えるのが演出の妙味だと思う。
映画を観る意味だと思う。
 
最近、出来るだけそのまま出す、社会派と言われる作品が
 多くてちょっと辟易している。演出者の映画としての作法と、
成熟が欠けている気がする。勢いがいいことが、追い込む演出が、
いい作品を生むことには間違いないが、そこに、演出者の視点が
欠けているのが少しさびしい。
 
それにしても、ウッディーアレンの徹底した観察者としての視点
の中、ケイトブランシェットの演技が冴え渡る。名演技者として
の底力を存分に出し切った演技で、本当に敬服する。
 
この人の演技力には定評があるが、いかんせんそれを正面から
受け止める監督が本当に少ない。その分、今の映画にはそぐわ
ないのかもしれない。大上段にかまえた演技はどうしても、
演出者が作り出す画に力量が必要になる。
 
それが弱いと、ただただ、浮いた場違いな演技となっていまう。
だからそれを少しでも薄くするために、彼女が出来る映画は、
ファンタジーだったり、歴史物だったり、絵空事が前提となって
しまう。
 
その大仰な彼女の名演を、ウッディーアレンは透明で、分厚い
ガラスの水槽の中に閉じ込めて、その中で、思いの限り泳がせて
いる。彼の、舞台作りの勝利で有り、その中で力の限り泳ぎ切る
彼女の勝利である。アカデミー賞を取れたのもうなずける。
 
それにしても、ウッディーアレンという人は、実に、シニカルに
冷静に現実を見つめる。彼女の大演技が冴え渡るほどに、力強く
前進するほどに、惨敗した人生を受け入れられず、朽ちていく、
正直なそしてか弱い女性を写し出す。
 
完璧と言える彼女の演技、そして、それを得る為に、何事にも屈
しない彼女の犠牲的人生。司る精神。そう、彼女は完璧である。
そう努め、そう生きている。だから、なにか人が誰しも持つ、
軟弱な迷いは感じず、機械仕掛けのような空虚感を感じてしまう。
何事にも同調せず、何事にも憐憫を感じない。他からも、自らも
現実を拒否している気がして、どうしても感情移入出来ない。
 
確かに、巧みで寸分違わない見事な造形を持つ演技だけど、
そこに心の触手がまとわりつかない。
 
その、完璧である故、遠く感じる彼女自身の表現を、心の無い
彼女の人生を、見事に捕まえて、水槽の中に落とし込み、泳がせて
えもいわれぬ哀れを私たち鑑賞者に見せてくれている。見事の
一言。観察者の視点の冷酷な透明度の美しさ。
 
ファンタジーといえるセレブな生活。そこから、追放され市井の
下世話な現実にはまってなお、ファンタジーを追い求める性。
その、構図が痛々しく、寒々しく、平坦に浮かび上がる。まるで、
エリザベス女王の様にしか、表現できない彼女の演技から。
 
それを、観るに。本当にウッディーアレンという人は、冷酷な
芸術家だし、それを分かっていて受けた、ケイトブランシェット
は、失楽園を選ぶ縁者としての完璧な覚悟がある。
 
そんな、残酷な現実を。こじゃれた音楽と、うっとりする優雅
なキャメラで描ききったこの作品を、どうして嫌いだと言えよう
か。久しぶりに豊かな時間を過ごせた満足感でいっぱいである。

 

   




 

 




 

 

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