Netflixで「ザ・バットマン」を観る。

一体どんな作品になるのか気になっていた。ただ、良いも悪いもあまり噂を聞かないうちに終わってしまったので、さほど期待せずに気楽に観ることに。

案の定、かなり暗い。内容もそうだけど、画面が暗くて質の良いモニターでないと、真っ黒で何をやっているか分からない。

Amazon fireTVで家のテレビで観ていたが、あまり質が良くないテレビだから、全く見えず、結局はMacBook Proで観ることに。

これならば、なんとか観ることができた。

感想はとてもよくできた“つまらない”映画。

一級の役者と演技、力を込めて作り込まれた世界、幾重にも盛り込まれた物語。全てが並の映画ではないことを、観ていれば肌で感じる。

この数年、バットマンの作品としての完成度は鰻登り。派生作品のジョーカーなど、娯楽の世界を易々と突き抜けて、社会風刺の名作となっている。

そこで、この「ザ・バットマン」

かなり厳しい覚悟で臨んだことが分かる。正直、なぜ?苦しい戦いになるのがわかっているのにと、思った。

監督、製作者の目論見、密かなそして確かな確信は、冒頭から良く分かった。今までの、バットマンを現実世界に宿らせ、生きた彼は一体どんな姿をしているのか。それへの共感を必ず世界は受け入れ、求めてくれているはずだと、限りなくエンターテインメントとしての部分を削いで、社会・犯罪・市民の物語として描こうとしていた。

バットマンも特別な人間ではなく、少々鍛えた程度。もちろんそれでは、相手は銃やナイフを使って殺しにかかるので、死ぬか大怪我。そこは、強固なプロテクターとしてのバットスーツを着ているからなんとかなるとはしている。

また、秘密兵器も超人的なものではなく、ワイヤー銃で飛び移ったり、相手を捕獲したり特別かもしれないが、とんでも無くもない。

驚いたのが、みんな大好きバットモービル。魔法のような仕組みを組み込み、ありとあらゆるピンチを、楽々とすり抜ける。が、この映画のそれは、エンジン剥き出しの単なる改造車。マッドマックスの暴走族が乗ってたような。

迫力満点には違いないし、カーアクションは満足いくものだった。もう一工夫欲しかったのは、正直な感想。なんたって、バットモービルなんだから。

そう言えば、カメラになるコンタクトレンズは、非現実なエンターテイメントと言えはそうだ。それぐらいだった。

相手も、特別な能力も仮装もしておらず。キャットウーマンも、多少運動神経の良いお嬢さん。だが、不思議とキャットウーマンだなと、納得させられてしまう。美人なのと、スタイルが猫っぽいからなんだろう。そこそこ満足。

それから、かなり前のティム・バートン版バットマンで、原型を留めていないほどの仮装をして、強烈な印象を僕の脳内に残したペンギン。これも、一目でペンギンだなと納得させられる風体の役者がやっていた。多少は化粧はしているだろうけど、普通の人間でどれだけ異形のペンギンを造作できるのか。ある面、挑戦だった。これも、納得。

冷静に考えると、そう悪くはない。それどころか、かなり手を突っ込んだ、凝った力作。

それじゃ何がいったい、どうして“つまらない”のだろうか。

ぼんやりと考えるに、一つはなんとも言えない違和感。実録犯罪もの見たく徹底して社会犯罪を描いている。まるで、マーティン・スコセッシみたい。でも、あれほどの迫力はないが。

どんどん、実録風に現実的に描けば描くほど、架空のヒーローエンターテイメントとしてのバットマンと折り合いが付かなくなる。そんな感じがして仕方がない。

やはり、現実の世界ではバットマンは生きてゆけない。架空のヒーローであるバットマンと、邪悪な現実の犯罪者、犯罪組織のバランスがとても取りづらく、観ながら視点の落とし所がわからなくなった。

もう一つ、敵役の存在感の弱さがある。あえてそうしたと思うが、社会から捨てられた人間が、社会全体の根底にくすぶる憎しみを、掬い上げ焚き上げ、一気に恨みのほのうで焼き尽くす。この犯罪の物語と。

それに対を成す、犯罪組織と政治、警察。それにつながる両親の過去。ミステリーとして、家族の事件の真相が浮かび上がってくる。

この二つが、それぞれ印象的で力強く物語を引き摺り進んでいく。双方とも納得のいく内容として語られるが、だからこそ物語全体が、山と谷が折り重なったように、平坦になってしまった。

いい話は続いているが、どこに錨を下ろしたら良いのか、彷徨ってしまい、時折睡魔に襲われた。今までの物語を、一歩も二歩も先に進もうとした意欲は、痛く、強く感じたが、純粋なエンターテインメントとしての甘みも欲しかった。

それに、肝心の敵役が、散々勿体つけて最後まで正体を引きずって現れたのに、なんだか全然パッとしない。これこそリアルと言えばそうだが、物足りなさで暴動が起きそうだった。

こんな感じかな、「ザ・バットマン」すごく気合の入った作品には違いないし、最後の終わり方なんて、完全に続編を作るき満々。作って当たり前だった。興行収益がどれほどかはわからないが、今のままでは次は難しいのじゃないかなんて、思ってしまった。

ただ、書いたように根っこはとても良かった。演技や、演出、それにこれだけは胸を張って良い!と言いたい「音楽」音楽は本当に素晴らしかった。脚本を捻り直せば、かなりいい線行くのではないかと思う。

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