凡庸“映画”雑記「LAMB/ラム」

Amazonプライムビデオで話題の「LAMB/ラム」が配信されていた。

ロングランを続けていて、監督が急遽来日したという曰くつきの(表現が変?)映画。

映画館で観たいなあと思っていて、観られなかったので、早速、観ることに。

ある夫婦に考えられないことが起こり、悲劇で終わる。そんな、説明があったから、もっと、おどろおどろしく衝撃的な内容になるかと思いきや、これが、あっさりというか、それなりというか、物語が進み終わった。

子供を亡くした夫婦。そこに、考えられない存在が与えられ、子を亡くした悲しさの反動で、夫婦が共に無条件に愛を注ぐ。特に妻は痛々しく、行き場のない愛情の狂おしさを痛感する。

だから、勝手に妄想し、この夫婦が秘密を隠し、守るために、人ならぬ道に進み、罪を隠すために罪を重ねて、最後は悲痛な絶叫の中、果てていく。そんな、ドラマティックな展開を待っていた。

それが、なんだかんで、人の道を外れた事件は起こらず。途中、混ざってきた弟との3人の生活が流れる。

かなり曲者で、過去に音楽活動をしていたが、酒かお金で身を崩し、堅実な兄貴の家に転がり込んできた。いよいよこいつが問題を起こして、夫婦を地獄に落とすのか。と、思ってみていたら、ギリギリのところで受け入れ、それ以降は意外と楽しく過ごしていた。

もちろん、気になっていた兄嫁にちょっかいを出そうとはしたが、上手の彼女にあしらわれ、すんなりと身を引いた。案外、いいやつなのである。

で、一歩間違えば、誇大広告のつまらぬ映画に成り下がっていただろうに、異例のロングラン。なんたって、監督自身が驚いて、日本に飛んで来たぐらいの。

どうして、こうまで観客を惹きつけ、劇場に足を向けせたのだろう。

で、僕自身はどうだったか?と言うと、これが結構楽しめた。それはどうしてなのか。書き並べてみたい。

一つは、脚本がとてもよく練られていたこと。あえて無理をせず、夫婦の生活の中に、訪れた幸福な異形として、素直に物語を作っている。衝撃的な場面を入れてしまうと、端々に力がこもり収拾することに無理が出る。

監督がどこかのインタビューで語っていたが、脚本にはかなり力を入れて練ったと。

北欧らしく、派手な場面を排除して、それでいて、恐怖感を場面全体に停滞させる、巧い脚本だった。

それから、編集がとても巧い。北欧の大大自然の山河をバックに、羊を飼い、畑を耕す牧歌的な場面の中に、違和感、異質感を感じさせる場面を差し込んで来る。このタイミングと、内容が絶妙で、恐怖を常に感じさせ、飽きそうな気持ちを追い払う。

そんな場面で印象深かったのが、動物の視線。羊や、犬、そして猫。この猫の目が本当によかった。一点を凝視し、動物でしか感じられない本能で恐怖の対象を見つめている。そんな、恐ろしさを感じた。単に、猫が外をみているだけなのにね。

そして、最後はやっぱり役者の演技。

主人公と言えるハリウッドにも出演したノオミ・ラパス。やっぱり彼女の演技は惹きつけられる。表情ひとつひとつに意味がるというか、なんというか。絶対的な存在感。

飼っている羊が、ある理由で執拗に家の周りを巡り、泣き続けているのを見て、あっち行と絶叫する声が、アカデミー絶叫賞なんてあれば、うやうやしく差し上げたくなる。

なんだろう。すごい美人じゃないと思うのだけど、目が離せないしっかりとした美しさがある。演技力を超えた、生まれた瞬間からの演者なんだろう。

それにしても、人も場所もミニマムな低予算映画なのに、なんの縁か知らないけれども、ハリウッドやネットフリックスにも出た彼女が、よく引き受けたものだと思う。演じる場所など眼中にないタイプの演技者なのだろう。

もちろん、旦那役の男優も、自然な演技で好感が持てた。アイスランドの役者で、出演数も豊富らしい。芸達者だと感じる余裕のある演技。

こんなところだろうか。スマホも、窓の光も音もない映画館の中でじっくり場面の隅々を味わう種類の映画だった。映画館で観れば、印象はもっと深く濃くなっていたはず。やっぱり、映画館に行けばよかったとは思ったけれど、こうして気楽にiPadで観れたんだから、贅沢ってもんだ。

最後、まあ、突然ひょっこりあれが現れて、物語は途切れるのだけど、あんまりにも普通に道に立って現れたのもだから、拍子抜けしてしまった。これが、ハリウッドならば、時空に風穴が開いて、大音響と共に現れるなんてことになるのだろうけれど、そうはさせないのは、監督のセンスか、映画の予算か。どちらでもいいけど。

話だけ聞くと、思った以上にあっさりとした物語。だけど、一度観たなら記憶に確かに残る映画だった。

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