「ノマドランド」を観て。諸行無常の儚さを知る。

監督が東洋人(中国系)だからだろうか。そこはかとなく侘び寂びを感じてしまう。

大きな事件はなく、何気に気遣い合いながら、互いを支えあって生きていく、車中泊民の四季を描いていく。

美しく広大なアメリカの風景を背景にしながら、孤独を抱えた女性の日々が、静かに息づいていく。声高に悲劇的な格差や、未来が壊滅した事実を、訴えるのではなく、主人公の飄々とした風貌に光る眼差しで、喩えようもない悲しみを描いている。

なんだか、侘び寂び、諸行無常の響きあり。

そんな思いを感じてしまった。

それもそうだけど、とにかくカメラが美しくて、確かで、それだけでも中身なんて意味がわからなくても、はい!名作。って満足、大満足してしまう。

なんだか、中身がなくても見栄えが気に入れば、なんでもOKの浅はか人間と思われてしまうやもしれないが、もう素直に敗北してカメラの美しさだけでも、拍手してもいいのでは、そんな素直さでこの映画をみても良いのではないかと思う。

一気に、画面に引き付けられ、その後、強烈な後悔が湧いてきた。

どうして、この映画を映画館で観なかったのか。この映画こそ映画館の暗闇が似合う映画はない。暗闇の中、輝くスクリーンに似合う映画はない。

どれほど、堪能できただろう。

せめて、少しでも大画面で観たい、観るべきと、MacBook Proの16インチディスプレイで観ながら、悔しくて涙が出たほどだった。(嘘です涙は出ません)

驚くのが、ほとんどが実際の車中泊民をやっている素人さん。これが、とても自然で素直で、撮られていると意識していない素の表情を見せている。それに溶け込んで演技と言っていいのやら分からないが、見事に生きている主人公役のフランシス・マクドーマンド。

この方、どこまでが演技なのかよく分からん演技をしていた。前々から大好物の役者さんだけど、この映画でもうすごいほどの達観に到達したのではないだろうかと、ただただ感心してしまう。

とにかく、素人さんの中で、ベテラン女優なのに、高低差が無い。それでいて、突失した存在感もある。真逆なことなのに絶妙の平均感覚でのらりくらりスクリーンの中歩いている。ちょいと演技に自信満々、女優としての成功に色気がある演者ならば、間違いなく突出して、うまいだろうけど、鼻にも目にも付いてしまう。

それがなくて、いいんだなあこれが。(どっかのビールのCMみたいだ)

噂では、女優として見てくれなくて、出演している車中泊民のリーダー的存在の人から、かなり事細かに世話をしてくれたとのこと。本当の貧しい女性として、本気で心配された。

ただ、途中ちょいとやりすぎかいなと、思わせる場面があって、それは正直居た堪れなくなって、目を背けてしまった。正直、今のあなたは見たくはありません。ハイ。なんてね。

返す返す言うけれども、本当にびっくりするぐらい事件がない。それに、陰惨な人間も登場しない。途中、車中泊民をギャングや、不良が襲ってボッコボコ。一人や二人銃で撃たれたりして、胸を掻きむしるような悲劇を描くのではと、観ていたけど、全くそんなことはなくて、静かに確かに進んでいく。

興味深かったのが、確かに世間からは冷ややかな目で見られている彼らだけど、彼らの中では弱さを受け止めて、補うように繋がり、助け合っている。それでいて、互いの生き方には干渉し過ぎず、生き方を変えることはせずに、それぞれの人生を育んでいる。

孤独の中で、無理にでも人と寄り添いたいと、人生を曲げてしまいやすいが、自由を選んでそこは踏みとどまる。とても強い自律性は学ぶべき点がたくさんある。

僕にとっては近年稀に見る、満足いく映画だったけど、意外に酷評している人も多い。

何も起こらないし、同じような風景ばかり、刺激のないつまらない映画だと、断罪している批評を読んだ。それに、アメリカで広がる格差と貧困の問題を描かず、美しい風景の中、旅を楽しむ人々として車中泊民を表現していると。

ただ、僕としては十分生きることの厳しさと、悲しみは描けていると思う。

声高に語らなくても、深く静かな悲しみをささやかな表情、包み込むような夕日の侘しさ。気がつくとやたら美しい夕日の場面が多い。画面全てで、思うに任せない理不尽な人生の絶望を描いていると、感じている。

観ながら感じたのだけど、なんだか「平家物語」この間観たアニメの。と悲しみの描き方が似通っていると思った。全く、接点のない両方だけど、根底の部分の哀れさと、愛おしさは同じなのではと感じた。

双方、女性監督だからなのか。分からないし、答えは出ないけれど。

個人的には、とても満足した映画だったので、こうしてだらだらと感じたことを書いてみた。そう言えば、少し前の映画なのに、今更なんで観たのかというと、AppleTVでびっくりするほど安くレンタルができたから。

確か、207円。驚くでしょう。

速攻でレンタルして、見始めたら最後画面に釘付けで見終わってしまった。ときどきはAppleTVもチェックして見なくてはと、改めさせられた出来事だった。

これに味を占めて、今度は何を借りようか、観ようかと思案している昨今である。

やっぱり、「デューン・砂の惑星」かな。

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