とうとう「漁港の肉子ちゃん」を観ることができた

気がついたらNetflixで配信

何気なくNetflixの新着欄を見ていたら、見覚えのある絵面が、これってあれか?もう一度よくよく見ると、やっぱりあれだ。(なんだか三文芝居か出来の悪い喜劇みたい)

「漁港の肉子ちゃん」

レンタルしようかしまいか悩んでいたら、なんと、Netflixで配信されるとは、さすがお目が高い。を通り越してある種の恐ろしささえ感じてしまった。

すごいもんだ、そのうちありとあらゆる映像作品が、動画で配信されるようになるやもしれない。

普通に良かった肉子ちゃん

それはさておき、作品は普通にとても良かった。なんだか、期待外れなぐらいにすっきりと感動させてくれる、名作に限りなく近しい秀作だった。

もう少しこの作品が、正しく世の中で評価され、ネットニュースに賞賛の拍手が乗っていたなら、きっと、クセの強いおちゃらけた関西の大物コメディアンでなく、内面に繊細で優しく、人の機微を誰よりも理解できる一人の人間だと、明石家さんまさんが認知されていたのでは。なんて、勝手に思ってほくそ笑んでいる。

よくまとめた脚本

物語の内容は、原作小説を読んでいたから、どこまで映画にするのだろうと思って観ていたら、周辺の話や人物はすっきり切り取って、重要な柱となる部分だけを上手く物語にしていた。

個人的に、気にいっていた人物が数名登場しなくっていたのが、少し寂しかったのだが、そうでないと、これほどまでにうまい具合にまとまらなかったはず。

必要不可欠な出来事を、多くなく少なくなくいい塩梅で組み立てて、とても好感のもてる物語にしている。

かなり陰鬱な誕生の物語が、途中、重要な転機として挟まれる。比較的コメディ寄りの物語が、この瞬間グッと深みを増す重要なところ、どうやって演出するのだろうかと、気になっていたが、嬉しいかな正面から頑張っていることが見え、僕の中で、かなり高い点数を稼いた。

腕の立つ、しっかりとした小説家が書いた魅力的な小説を土台として、脚本が書かれている。だから、多少の変化をもろともせず、話の本質に一本筋が通った、柔らかさで自然な作品でありながら、芯の通った命の物語にしている。

自然に胸に収まる演出

この監督の演出の感想として、登場人物も、展開もかなり突拍子もないところがあるのだけど、なぜだかスッと自然に胸に収まる、自然さがある。

そこそこ予算のかかった話題作品だから、もっと我の強い演出で頭に残るような場面作りをすれば、良くも悪くもエグさが出て印象深くなるのだけど、この監督からは、不思議にそんな自己主張、別の意味で言えば押し付けがましい個性を感じなかった。

個人的にはすごく気に入った、それに、作品の本質に合っている。

欲をふんだんに出し、もっと尖った演出にすれば、吉本総動員、制作は明石家さんま、主人公たちは名のある名優と、ふんだんに素材は揃っていたので、話題に事欠かなかっただろう。けど、こんなことを書いたけど、やっぱり絶対、この色合い、空気感、距離感がとても素晴らしいと、僕は信じている。

気がつけば美しい

演出といえば、映像の美しさ、アニメ映画としての基本となるもの、新海誠の「君の名は」が大ヒットしてから、とにもかくにもとりあえずアニメは”ビール”じゃなくて、とりあえずは”絵”の美しさ。

間違いなく、この作品の”絵”の美しさは、近年稀に見る逸品である。

凝視すると、何気ない寂れた港町、峠のカーブから港を望む海と山々、それらが丹念に精緻に、色彩豊かに、何気なく描かれている。人情喜劇と言える物語とは、あまりにも似つかわしくない素晴らしさだ。

だから、新海誠恐るるにたりず、なんてほどの”絵”を持つ作品なのに、話題に出ないのが寂しい。けど、自分一人の秘密の絶景を見つけたようで、妙に嬉しいのもある。

心配だった出演者の演技

それから、出演者のことを。

メインの二人は一応ネイティブの関西人。つまりは、関西弁を駆使して会話をする。

だから、日頃家族では関西弁を使っている僕としては、どうても気になる。どれほど内容が絵が良かったとしても、肝心の関西弁がダメダメだったら、もうその時点でも〜あかん。

主人公の肉子ちゃんは、名優の大竹しのぶさん。関東の人だけど、この人の関西弁のうまさ芸達者ぶりはよく知っているので、不安は全く無し。案の定、多少大袈裟な演出だったけど、それは非常識な人物設定なので、よくよく合わせて彼女なりの演技だったと感じて、嫌な気がしなかった。基本満足。

もう一人の主人公。娘のキクりん。これが一番の心配事。新人女優やアイドルを使って、ぎこちない演技で興醒めになったら、いかんにせん。

でも、意外とそれは杞憂だった。物語の色合いに合った、落ち着いた自然な演技で、個人的には好感を持った。それに、心配だった関西弁もそう悪くない。

観終わった時に、関西出身の女優さんかなと、確認してみたらなんと木村拓哉の娘さんCocomiさんだった。間違いなく関東で生まれ育っている。音楽をやっているから、とても耳がいいのかもしれない。

大竹しのぶみさんみたいに、なんでもかんでも役が憑依させた圧倒的な演技力はないから、基本的な音感の良さゆえなのかもしれない。

それと、 焼肉屋の親父さんはすごく良かった。芯のある声、流れてきた親子を厳しく暖かく見つめる目。物語の強く深いアクセントになっている。中村育二氏が演じている。

人のことは関係ない

人のことを気にしていちゃ、創作品を楽しめない。そうは思っていても、ついつい他人の評価を検索してしまう。かなり賛否両論が散見していた。手厳しい評価をしている方も多そう。だけど、この作品、僕はとても気持ちよかった。一生、贔屓にしていく作品の一つとなった。

書きたいことを適当に書く殴ぐり、収取がつかなくなりそうなので、この辺で終わりに。

あと、最後の最後。この監督の憎たらしい演出に、やられたなぁとほくそ笑んだ。キクりんが宿った時、そして、命を宿せる大人になったことがわかった時。この瞬間の肉子ちゃんの表情は、前代未聞の名演技だった。そう、思った。僕はね。

とにかく作品の良し悪し、評価は人それぞれ、一度観てみても損はないんじゃないかなぁと思える作品でした。

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