勝手に日本人が一番活かせる演出だと思って観ていた「かもめ食堂」

Amazonプライムビデオでいろいろ見ているけど、この間「かもめ食堂」を観てみました。

前から気にはなっていた作品。評判も悪くない。だけどどうも感じがぬるい。どうしても後回しになり、どうしても刺激の強いアクションものの再生ボタンを押してしまうのです。

いつかはと、iPad Proにダウンロードしたままほかしていました。

ある日、アニメも映画も観るものがなくなり、それじゃと再生ボタンをクリック。

舞台はなぜかフィンランドのヘルシンキ。そこで開店した小ちゃい食堂。大した料理は出さず、日本の家庭でいつも作られるような食事を出す。唐揚げ、とんかつ、焼きシャケ等々。看板メニューがおにぎりというのが拍子抜けするぐらい面白い。それには、深い訳があるのだけど、それは最後の何気ない会話の中で明かされて、胸がじんわりしてしまうのです。

主人公は小林聡美。初めて映画に主演した「転校生」を観た時。あまりの旨さにとんでもない女優が出てきたもんだと驚いた。いったいどんな化けもに成長するのかと大いに期待した記憶があります。

結果、でかい顔で銀幕やモニターに映し出される女優にはならなかったけど、それだからこそ、今の彼女の生き方そのものの地に足ついた正直な演技を観ることができる。これは幸福なことに違いない。

彼女、華やかな顔立ちじゃないけれど、不思議な色香が瞬間薫るのがいい。カメラが切り替わると、この綺麗な人は誰?と、見惚れてしまう。そのあと、あ?いかんと自分の姉(実際はいないので妄想)や母親、親戚のおばちゃんをそんな目で見つめてしまう罪悪感を感じてしまうのが、不思議だ。

彼女はこのままこうして演技を紡いでいくんだろう。紡いで欲しい。

他には、かもめ食堂といえばこの二人。片桐はいりともたいまさこ。

この二人がなんともいい。味というのは平凡すぎる表現だけど。容姿から動きから、セリフの響きからなにから、映画の中に備わった小道具?大道具?いや失礼。絶対的な存在みたいな。そう普遍で絶対的な惑星。

小林聡美の周りを輝きながら、引力で引っ張り合いながら回っている、そう、惑星。

なんだ彼女らの演技を見ている時の幸福感は。月の動きは人の感情に影響を与えると言いますが、彼女らの演技の円運動は、それだけで心をふんわりしてしまう。

他には、フィンランドの役者さんたち。市井の人々。

その辺にいるような感じがいい。そうじゃない人もいるけど、ちょっとユーモラスで、それでいて、それぞれの悲しさを内に蓄えている感じがよい。もちろん元気いっぱいの市井の人もたくさん。

狂言回しになっている日本好きの兄ちゃんが、良い。無邪気な表情で元気良い日本語、演技じゃ無くて本当にその辺にいる日本びいきのお兄ちゃん。

そんな、素敵な国の、のんびりゆったりマイペースなフィンランドにも悩みがあり、悲しみが積もっている。彼女らとの出会いの中で、それぞれが新しいやさしさを見つけて、すこし前に進んでいく物語。

大それた事件も起きないし、生死に関わる行動もしていない。だけど、人の悲しみややさしさ。幸福の大切さが胸の奥で広がってくる。

そう言えばこんな物語どこかでみた覚えが。

と、頭の中をひっくり返したら。そうだ、ついこの間「深夜食堂」を観たのを思い出す。

人が肩を寄せ合って、よろこびや悲しさを突き合わせ。それを、ただ静かに聞きながら、さりとて目を離さず。あるがままを受け入れる。このやさしい姿が結果的に人の喜怒哀楽をこれ以上ないほどに描き表す。

日本人の作る映画がだなあとしみじみ考えちゃいます。こんな引き算の優しさを描けるのはどうしたって、日本。と勝手に宣言してみます。

逆にこれだけしかしっくりしたものを作れないのかもしれない。なんて映画業界で必死こいて作品を作る方々に殴られそうな事を思ってしまった。のです。

この流れの源流に小津安二郎監督の「東京物語」があると思うし、寅さんも混ぜてもいいのじゃないだろうか。

眈々と流れる場面の中で、ささやかに繊細に精緻に人の心が傷つき、悲しみ、やさしさに包まれ、癒されて、いく。

やさしさの傍観を扱った表現方法は、日本らしい良さがあるような気がしかたありません。

悲しいかなこの場合、ドラマティックで刺激的な物語にはならない。わかる人だけと言うことになりやすい。それに、それほど表には出られない。現に僕も観始める前まで、ハリウッドのアクション映画や、韓国の犯罪もの、はたまた戦争映画等々遠回りをしました。

このような物語は、目立たず市井の人々の狭間から染み出して、気がついたら足元一面に広がって、誰もの心を染めていくもの。気がつく時間がどうしても掛かってしまうのがもどかしい。

それでも、この映画の系譜は面々と日本の演出者や俳優の中で受け継がれて行くだろうし、なんとしても受け継いで欲しいと、この映画を観ながらしみじみ思ったのでした。

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