Umimathi

永遠に見続けたい映画「海街diary」

「海街diary」を観ました。とても素晴らしい作品でした、永遠に見続けたいほどに。前作の「父になる」がとても素晴らしかった是枝裕和監督の新作。本当ならば、映画館で観るべき映画でしたが、気がついたら終わっていました。

今回、DVDで観て、やはりこれは映画館で観るべきだったと後悔しました。ゆったりとした、風景の中で、一見、何気ない日常を描きながら、人生の機微に練りこまれた苦さ苦しさを、淡い映像と、端正な構図、腰の座った安定感のある演技で、鮮烈に浮かび上がらせています。実に匠な演出です。

主人公と言える四姉妹は、若手のお世辞にも演技派とは言えない女優です。それが、通常の若手女優を使った映画とは一線を画す、とても自然で素晴らしい演技をしています。彼女らの表情がとても自然で、近所の角を曲がれば出会えそうな感じがします。華やかさとは真逆の、乾燥した親近感が人生の機微により沿った女性を、正直に映し出しています。

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今回、やはり、広瀬すずを中心に見ている人が多いと思います。でも、綾瀬はるかが、僕はとっても良かった。さほど演技巧者ではない彼女は、硬い表情で固まることか多かった。が、この映画では行き場のない感情を、漂う目線でじつにうまく演じています。特に素晴らしいと心に残ったの場面は、母との別れ。発車した電車を、見つめながら多彩に表情を変えて、わだかまりのある母親なのに、心の隅では永遠に共にいたいという、幼子のような心情を吐露していました。

ほとんど化粧の効果がない彼女らの表情にも嬉しさを感じました。地味な輝きを消すことで、本当の色が浮かび上がり、風景の中に演技が溶け込む。その瞬間、延々と心地よさの海に満たされていく。舞台となる鎌倉の風景に映り込む海の情景と呼応するような演技演出に、この監督の繊細で、たしかな意思を感じます。

そして、主人公の彼女らを、徹底して擁護するように周りを囲む芸達者たちが素晴らしい。ため息が出るほどです。決して出しゃばらないのに、しっかりとした安定感のある演技で、映画全体の構造を一片も崩さず、全体的に支えています。これが、演技というものでしょうか。映画の安心感が例えようもなく、実に安心して観ることができました。

みんな素晴らしかったのですが、男性陣がとても良かった。リリーフランキーは福岡弁を使い、静かにのびのびと演じています。ネイティブの言葉で演技している心地よさでしょうか。そういえば是枝監督は、子役を東京の設定なのに関西弁のまま喋らせていました。より、本来の姿をだした演技を引きだすために、生活背景を尊重させる演出を取るタイプの監督なのかもしれません。

もう一人、これは大好きな俳優の、堤真一。なんたって、この人がでると場面がしまる。今回も、ちょと気持ちが弱く優柔不断ゆえ、主人公を傷つけてしまう役だったのですが、女々しくなく、冷たくもなく、誠実に対しているのになにかしら人の心をないがしろにしてしまう、身勝手さをふくむ男の姿をさせていました。やっぱりうまい。

それと、驚いたのが加瀬亮。初めは全く別人なのでわかりませんでした。でも、声は紛れもなく彼の声なので、おかしいなあと思っていたのですが、よくよく見るとやっぱり彼でした。別人のように地味な銀行員を演じていたのですが、その溶け込み方が半端でなく、彼の演技の幅の広さを実感しました。

もちろん女優陣も素晴らしかったのですが、特に男性の脇役に、とても心かれた映画でした。

本当に、素晴らしく、とても楽しめた作品です。もう少し理屈っぽい作品になるかもしれないと思っていました。よけいな作品への思想や哲学は捨て去って、春の桜の花びらが舞い散るように、夏の海風が香るように、冬の雪華が積もるように、思うに任せない人生の機微が、心に、密かに流れ込むすてきな映画でした。

きっと、この映画はもう何回か観るでしょう。僕にはめずらしく。

 









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